7MHz-QRP-CWトランシーバーの製作
APB-3を手に入れたので、これを使って「何か」作ろうと考えました。スペアナ機能やネットワークアナライザ、周波数カウンタを活かすとなれば、受信機などがよさそうです。・・・が、すでに中波ラジオや短波ラジオの製作は十分に楽しんでいるので、アマチュア無線のトランシーバーを作ってみることにします。
トランシーバーの自作では、50MHzが人気ですが、最近の50MHzは運用局が少ないと聞きます。アパマンハムの現状でもアンテナが用意できることとWebや書籍などで情報が豊富な7MHzのCWのトランシーバーを製作することにしました。
まず、受信機を作ってみます。JR3TGSさんのTGS-40Cを参考にしてブレッドボードでテストしてみました。混合と検波にDBM(ダブルバランスドミキサー)-ICのNE612を使用したものです。ブレッドボードの状態でも安定して受信できます。しかし、このまま局発にDDSを使用するとコストの高いトランシーバーとなります。
送信波をNE612で局発と混合して生成することにすれば、DDSの代わりにVXOが使えます。そこでVXOをブレッドボードでテストしました。IFフィルターは、10.240MHzの水晶発振子を使用したラダー型クリスタルフィルターとします。VXOには、7.04MHzの差がある17.280MHzのクリスタルを使用しています。この状態で周波数を50KHz近く可変することができました。7MHzCWの運用帯域は30KHzなので十分です。この状態でDDSに変えてブレッドボードで受信状態を確認すると耳で聞く限りは問題ありません。
フィルターとVXOに使用する水晶発振子は、これ以外の組み合わせでも問題ありません。希望する周波数帯となる周波数差があれば使用できます。(たとえば16MHzと9MHzとか・・)なお、DDSを使用する場合は、周波数が自由に設定できるので、IFフィルターの周波数は自由度が高くなります。
受信機の基本的な回路ができたので、いくつかのブロックに分けて製作します。試行錯誤しそうなので、ユニバーサル基板やプリント基板をエッチングしたりするのは大変になります。このため、「ランド方式で作る手作りトランシーバ入門(JF1RNR 今井 栄著)」を参考にランド方式を採用しました。また、ICやコイルの実装には、キャリブレーションさんでモジュール基板を入手しました。
VXOの作成 2013-04-10
VXOの回路図です。JR8DAGさんの「自作に関する考え方など」を参考にしています。基本波の発振回路なので単同調回路のみで取り出しています。また、負荷変動が周波数安定度にどの程度影響があるかわかりません。問題があればバッファアンプや複同調回路を追加することで対応します。
50mm×40mmに切り出した基板にランド方式でVXOを作りました。この状態でヘリポットを基板に固定してVXOをテストしてみると発振自体は問題ありませんが、周波数変動が5分程度で2000Hzと大きくなりました。どうやらヘリポットが影響しているようです。基板からヘリポットを放すと周波数変動は少なくなりました。
APB-3を使用して周波数変動を測定しました。APB-3には、周波数カウンタと自動でログを取得する機能が実装されているので簡単に周波数の変動を測定することができます。また、周波数をそのまま記録したり、偏差を記録することも可能です。
周波数変動のグラフです。900秒(15分)で70Hz程度でした。400秒前後の変動は電源電圧の変動の影響です。10分過ぎまではゆっくりと変動しますが、それ以降は概ね安定しました。
APB-3でみた狭帯域のスペクトラムとGigastで測定した広帯域のスペクトラムです。水晶発振回路としては、やや裾の広がりが大きいのですが、受信状態を確認しても問題はありません。第2高調波で基本波の-20dBmとなりました。これがどの程度大きい値なのか、経験が少ないのでピンときませんが、送信機のフィルタで十分に減衰できると判断しました。
高周波混合部 2013-04-14
アンテナからの信号とVXOの信号を混合してIFを取り出す回路です。NE612に変換利得があるので、高周波増幅は不要となります。NE612の出力はトランジスタのエミッタフォロアで受けてIFフィルタへのインピーダンス変換を行います。
ランド方式で回路を組み立ててIF出力までの動作を確認しました。信号発生器から-90dBmをアンテナ入力に加えるとIFで-80dBm以上が得られるので10dB以上の変換利得があります。
IFフィルター部 2013-04-19
IFフィルターとして使用するラダー型クリスタルフィルターは、20個500円で購入した10.240MHzの水晶発振子4個で作成します。4個の水晶発振子は、APB-3で共振周波数を測定して選別しました。フィルター回路は、海外の製作によく利用されているシリーズ型を採用しました。このシリーズ型については、CYTEC/サイテックさんの「自作の泉」に、国内の製作でよく利用されるパラレル型との比較があります。シリーズ型は、使用するコンデンサが全部同じ容量で済むことがメリットだと思います。
クリスタルフィルター単体の特性をAPB-3のネットワークアナライザーで測定してみました。入出力のインピーダンスマッチングが取れていませんが、設計に近い800Hzの通過帯域となりました。4素子のフィルターなのでサイドの切れはあまり期待できません。
VXOと高周波変換部を接続して、クリスタルフィルター出力ををAPB-3で見てみました。アンテナ入力に、信号発生器から7.000MHz -90dBmを入力すると約10.238MHz -90dBmのIF信号が出力されます。マッチングロスもあると思いますが、混合部の変換利得を考慮すると、フィルターの挿入損失がやや大きいようです。APB-3は、この低レベルの信号がしっかりと見えるので非常に便利です。
検波部と低周波増幅部 2013-04-23
IFフィルターの出力を2SK241で増幅して、ミキサーICのNE612に入力します。NE612では、BFOとしてIFよりも800Hz高い信号を発信させ、IFと混合することにより、800Hzの検波出力を得ます。
ランド方式で作成して検波出力をクリスタルイヤホンでモニターすると正常に動作することが確認できます。
基板上のコネクタから適当なリードを伸ばして検波部のNE612付近に近づけるだけで、APB-3では、弱いスペクトラムを測定することができます。10.238MHz付近のIF信号からBFOが800Hz高くなるようにBFOの発振周波数を調整しました。
低周波増幅部は、LM386を使用した一般的な回路です。
スピーカーを接続して、アンテナをつないで実際のQSOを聞いてみると、十分な感度で受信できます。ただ、AGCがないので強力な局が出てくるとスピーカーから驚くような爆音がでます。アンテナ入力に可変抵抗をつないでRFゲイン調整できるようにしたほうがよさそうです。
ここまでで7MHzCW受信機として完成したことになります。
送信用混合部 2013-04-24
NE612で発振した10.240MHzの送信用局発とVXOを混合して7MHzの送信波を作る回路図です。出力の同調回路は、FCZコイルの手持ちが少ないのでトロイダルコアT37-#2に0.29UEW30Tで作成したコイルを使用しました。
はじめは単同調としたのですが、電力増幅部まで作成してからAPB-3で測定するとスプリアスが大きいので複同調回路へ変更しました。
NE612からの混合出力のスペクトラムと複同調回路通過後のスペクトラムです。複同調回路によりスプリアスが十分に低減されていることがわかります。(いずれも20dBのアッテネータが入っています。)
緩衝増幅部+電力増幅
バッファーアンプは2SK241としました。パワーアンプの終段トランジスタは、はじめ2SC2120で作成していたのですが、電源電圧を上げて送信出力を300mWまで上げるとスプリアスも大きくなり苦労しました。終段トランジスタとしてよく採用されている2SC2053を入手して交換してみたところ、あっさりと安定してパワーが出るようになりました。
パワーアンプの出力をAPB-3で測定した結果です。APB-3に送信出力を直接入力すると故障するので、20dBカップラーを介して接続しています。この時点では、混合部の出力が複同調回路となっていないので盛大にスプリアスが観測されています。このあと複同調回路に変更したところ、スプリアスは大きく減りました。(画像は取り忘れています。)
ローパスフィルタ部
LPFは、第2高調波で50dB程度の減衰量が必要と判断しました。スマートフォンアプリのRF&Microwaveを使って設計しました。
LPFの回路図です。コイルはトロイダルコアを使用しています。コンデンサは中途半端な値となるので組み合わせて概ね近い値となるようにしています。
LPF単体の特性をAPB-3のネットワークアナライザで測定してみました。ほぼ設計とおりの特性が得られました。
パワーアンプの出力にLPFを接続してAPB-3でスプリアスを見てみました。一番大きな第3高調波でも基本波から60dB以上も減衰しています。送信出力も電源電圧12V時に25dB程度あるので300mWとなります。
送受信切り替え部 2013-04-28
受信部と送信部がそれぞれ完成したので、トランシーブ回路を追加して送受信の切り替え動作をテストしています。送信時のサイドトーンも必要なので、JG3ADQさんのサイトを参考に作成して追加しました。また、RITもほしくなったのでVXO基板を作り直して追加しました。
最終的な全体回路図です。
ケースは、タカチのYM-200を使用しました。各ブロックの基板は、半田で接続して共通グランドとしています。基板の固定はケースに両面テープで固定してあります。
外観です。受信部へのアンテナ入力となるRF-GAINは、背面に取り付けてあります。前面パネルのトグルスイッチは、RITのON-OFFのためにつけましたが、RITの可変範囲が少ないため不要と判断して未配線となっています。LEDは、2色のものを使い、受信時に緑、送信時に赤で点灯します。
局免の変更申請が必要なので、実際の交信は行っていませんが、FT-817と本機双方にダミーロードを接続して交信をシミュレートして送受信が正常にできることを確認しました。FT-817で聞いた本機の送信波のモニタ音もクリアです。また、アンテナをつないでの受信性能もFT-817に大きく劣ることはありません。ただ、フルブレークインで送受の切り替え時にスピーカーから発生するクリック音がやや大きいのが気になりました。(一応、対策はしたのですが不十分です。)
送信出力は、電源電圧により変化します。実測では、13.8V時に400mW、12V時に300mW、9V時に200mW、8Vで160mWとなりました。3端子レギュレータの仕様上、5V+3V程度は必要となるので、最低電圧は8Vとなります。
ブロックごとに作っていくことで、複雑と思っていたトランシーバーも失敗なく完成させることができました。ランド方式は、部品の交換やブロックの作り直しで部品が再利用できるなどの大きなメリットを感じました。また、測定器としてAPB-3があると大変便利です。HFローバンドのトランシーバー製作は、APB-3だけで十分です。
最後に、書籍やWebで情報を参考にさせていただいたOM各局に感謝申し上げます。
1件のピンバック
DDS-VFOを使った7MHz-CWトランシーバーの製作 – henteko.org
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