フェライトビーズの減衰特性について

 高周波回路やその近くの回路への電源供給ラインにフェライトビーズを挿入することがあります。これは、電源に高周波が重畳して回路の動作に悪影響をあたえることを排除することを目的にしています。いわゆるチョークコイルの様な特性に期待しているわけです。(ちがうかなぁ・・自信無し)

高速ディジタル信号を伝送する信号ラインにいれたフェライトビーズは、リンギングを減らして放射ノイズを抑える用途だと思います。電源ラインに入れるのは、ノイズの放射を防ぐのではなく、高周波の回り込みを防ぐチョークコイルとしての用途だと思うのですが・・・いずれにしろ電源ラインのインピーダンスを上げてその前後のバイパスコンデンサでインピーダンスを下げてやればノイズに対しては有効かと・・
 ・・・・といっても、これまで、フェライトビーズの効果を確認したことはなく、確たる技術的な裏付けもありません。ただ、参考にした回路に使ってあったとか、心配なんでとりあえず・・という安易な気持ちで使っています。実際のところ、どの程度の周波数にどの程度の減衰が得られるかをスペアナ・アダプターGigaSt v5を使って簡単に実験してみました。

 実験回路は単純です。基板用BNCコネクタのアース側をショートし、芯線側に短いリードをつけてショートし、基準となるようにGigaStのTGモードでフラット化します。測定は、対象のフェライトビーズを短いリードに挿入して減衰量を測定します。このような回路なので周波数によっては、共振したりして特性が暴れる可能性があります。得られた結果は、あくまで参考程度と考えたほうが良いでしょう。

 FB101-#43を測定してみます。1個をAWG28の短いリードに挿入した状態です。これまで電源ラインに一番使用してきたパターンです。なお、測定対象のフェライトビーズは、すべてFair-Rite社の製品としました。

 100MHzで1.9dBの減衰となりました。この実験回路では200MHzを超えると減衰が少なくなりますが、これはリードの長さや取り回しのよって大きく変化すると思います。ただ、想像していたよりも減衰量が少ないです。この減衰量ではあまり大きな効果が得られないような気がします。

 単純に個数を増やせば減衰量も増えるはずです。FB101を5個挿入してみました。減衰量は、単純に5倍とはなりませんでしたが、100MHzで7.5dBとなりました。電圧比では半分以下に減衰できることになります。これぐらい減衰量があると効果がありそうな気がします。・・根拠はありません。^^;

 FB301-#43を1個の場合です。FB101と大きさを比較すると長さは倍近くになりますが、直径や穴の大きさは同じサイズとなります。100MHzで3.4dBの減衰量です。FB101に換算するとおよそ2個分の減衰量です。単純に長さに比例するのでしょうか。

 FB801-#43を試します。FB801も使用頻度が高いフェライトビーズです。特に伝送路トランスのコアとしてよく使われています。FB801は、穴のサイズがFB101とくらべて大きいので、複数回のループが構成できます。今回のAWG28のリードでは4ターンまで通すことができました。(4ターン目はかなりきびいしいですが・・)
 GigaStのグラフは、1~4ターンまでを重ね書きしてあります。100MHzの減衰量は、おおよそ1ターンで4dB、2ターンで12dB、3ターンで19dB、4ターンで24dBとなりました。ターン数と減衰量は、単純な比例関係にないようです。

 同じくFB801を3ターンまで低い周波数での減衰量を見てみました。スパン50MHzとして測定すると、DCから次第に減衰量が増加し、15MHzを超えるあたりからほぼ一定になりました。

 もっと低い周波数での減衰量も調べてみました。信号発生器から100KHz -30dBmの信号を加えてみます。まず、以前作成した電界強度計でスルー測定し(左画像)、次にFB801の3ターンを挿入して測定してみると、まったく減衰はありません。ということで、音声帯域や直流には、まったく影響がないといえるでしょう。

 フェライトビーズは、高周波でインダクタとして動作します。LCメーターでインダクタンスを測定して減衰量とマッチするか確認してみました。
 最初にLCメーターをインダクタンス測定に切替え、測定に使用する短いリードでショートした状態でキャリブレーションを行い、リードのインダクタンスやキャパシタンスを除外します。

 リードにフェライトビーズを挿入してインダクタンスを測定しました。FB101を1個から6個まで測定しましたが、個数に応じてインダクタンスは、増加しますが、個数とインダクタンスは、比例関係ではありませんでした。これは、減衰量も同じで単純にはいかないようです。

 FB301とFB801の1ターンを測定してみると比較的近い値となります。減衰量も同じ傾向でしたので、1個のフェライトビーズは、太さより長さのほうがインダクタンスや減衰量に相関が高いと思われます。

 番外編として、電源のEMIフィルタとして使われる村田製作所の「エミフィル」(・・と思われる部品)を試してみました。型番や特性はよくわからないのですが、電源のフィルタとして使えると思い、かなり前に購入してお蔵入りしていたものです。3本足の真ん中を除く2本にはフェライトビーズのようなものが取り付けられています。

 GigaStで特性を見てみるとかなりの減衰量が得られます。最も減衰の大きい148MHz付近では47dB近い値となりました。また、70MHz超えるあたりからUHFまで20dB以上の減衰量が得られます。形状からフェライトビーズのように電源供給ラインに気軽に挿入とはいきませんが、専用の部品だけあってかなりの効果が得られそうです。

 LCメーターでインダクタンスとキャパシタンスを測定してみました。3本足の両端で0.80uHのインダクタンス、真ん中のリードと左右のリード間でそれぞれ260pF近くのキャパシタンスがあります。部品のプリントに271とあるのは、セラミックコンデンサと同じ表記形式でキャパシタンスを示しているのでしょう。

 フェライトビーズを電源ラインに挿入することで、回り込んでくる高周波を減衰できることは間違いありません。しかし、これまで考えていたほど減衰量は大きくありませんでした。基板への電源供給ラインにFB101を1個入れるだけでは、高周波のフィルタとして効果が少ないと思われます。フェライトビースを挿入した電源線と適切なバイパスコンデンサを組み合わせて考える必要がありそうです。
 インダクタとしての高周波(交流)におけるインピーダンスは、ωL=2πfLなので周波数が高くなれば大きくなるイメージがあったのですが、ある程度、周波数が高くなると減衰量が少なくなることがわかりました。おそらく、浮遊容量等の影響を受けるのだと思います。
 「心配だから挿入しておく」では、効果があるのかどうか余計わからなくなります。高周波の回り込みの影響が出ていると判断したときに、原因となる高周波の周波数や強度を見極めて、それに見合った量のフェライトビーズを挿入するのが正しい対処でしょうね。